会議で描く

003_対立する討議を冷静に収める方法.jpg
まだまだ入社したての恵賀くんは、それほど社内会議に出席する機会がありません。
しかし、今日は違います。
恵賀くんには関係ない会議だけれど、自分の出番があることを知ったのです。
それは、こんな風の噂を恵賀くんが耳にしたからでした。

「いま営業会議室がたいへんなことになっているよ」
「デザイン室の細川マネージャと営業の山名課長が大揉めらしいぜ」
「誰かが何とかしないと収拾が付かないかもな」

「よし!」と、恵賀くんは立ち上がり、営業会議室へダッシュしました。
「おい、どこにいくんだ! 恵賀!」と周りから声がかかります。
なんだか注目された恵賀くんは、走りながら半笑いになり「ボクにまかしなよ!」と言い残しました。

会議室に入ると、細川マネージャと山名課長が火花を散らして、激論しています。
恵賀くんはその様子を見て、ホワイトボードに何やら描き始めました。
「この乱は、ボクが鎮静化させる......」と呟きながら。

つづく
会議で描く】| 2011年2月 7日 | コメント(1030) | トラックバック(0)


004_対立する討議を冷静に収める方法_2.jpg
ホワイトボードに向かってペンを走らせていた恵賀くんは、「ほぅら、お二人さん!」と振り返りながら、細川マネージャと山名課長に視線を注ぎました。
なんとホワイトボードには、両者それぞれの主張がまとめられています。
「い、いつのまに......」と同時に声を漏らすほど、互いの議論は恵賀くんの存在に気づかないほど白熱していたのでした。

「ご両人の意見はごもっとも。でもこうやって内容をまとめたら、なにかに気づきませんか?」
恵賀くんは質問を浴びせました。すると細川&山名が声を揃えて、
「おや、思っていたほど意見が食い違っているわけではないなぁ......」
と呟いたのです。

「そう、そこなんですよ。ちょっとこうやって全体像を描いてみたら、割と考えが一致していることに気づくんです。そうしたら前向きになって、新しい案が話し合えそうでしょ!」
と、恵賀くんは"児玉清のアタックチャンス"的な小さなガッツポーズをしながら、二人に訴えました。

先ほどまで対立していた両者はホワイトボードの盤面をしばらく眺め、「じゃあ、さあ......」とお互い同時に声を発しました。
それを耳にした恵賀くんは、「二人とも息ピッタリじゃん」と上から目線な感想を浴びせながら、その場を後にしようとしました。
すかさず「ちょっと待てよ、君......」と恵賀くんの背中に、細川&山名のダブルホイスが届きました。二人の責任者は同時に、恵賀くんを呼び止めたのです。

さらなる教えを請うために......

つづく
会議で描く】| 2011年2月 9日 | コメント(1068) | トラックバック(0)


004_対立する討議を冷静に収める方法_3.jpg
恵賀くんの説明口調は、相手が責任者であってもお構いなしです。
「意見の食い違いはビジネス活動において避けられないが、そこに感情が表立って相手を論破しようとするからこじれる。さらに、相手の表情や仕草によって敵対反応が高まる。こんな状態になっては、話し合いがうまくいくものもダメになってしまう。だから......」
恵賀くんは、ホワイトボードを指さして、
「ホワイトボードに論点を要約した図などを描き、そこへ両者の視線を注がせる。すると、感情に支配されていた互いの心が......その呪縛から解き放たれ......冷静に状況をつかもうとし......よって対立していた討議は、その幕を静かに下ろすのであ〜る」
と、講釈をたれました。

「言わんとしていることは、わかる。まさに我々もそうだった......」と、細川マネージャと山名課長はウンウンと頷きました。
「ね、お互いに理解し合えて、よかったですね」と恵賀くんも満足し、会議室の外へ出ようとドアに手をかけました。
とたんクルリと振り返って、「これから会議をするときは、決してホワイトボードのない部屋では行わないようにね。......おふたりさん!」と人差し指を立てて、左右にククッと振ったのです。

そんな恵賀くんが会議室から姿を消した後、「なんかアイツが一番腹立つね......」と細川&山名の両名は口を揃えたのでした。

第4話おわり
会議で描く】| 2011年2月11日 | コメント(1107) | トラックバック(0)


006_臨場感あふれる議事録の書き方_1.jpg
ついつい......、課長にこっぴどく叱られている田原本くんの姿に気づいた恵賀くんは、二人の会話へ耳をそばだてました。
どうやら、前回の会議を欠席した課長が、田原本くんの議事録にクレームを付けているようです。

課長「おまえの議事録を読んで会議に出たら、様相が全く違っていたぞ!」
田原本「えっ、どうしてですか? ちゃんと決まったことは書きましたよ」
課長「議事録からは何の問題も読み取れなかったのに、会議の雰囲気は殺気立っていただろ!」
田原本「ええ。そうですよ」
課長「なに言ってんだ! 前回は"無事に合意した"はずじゃなかったのか!」
田原本「いや、大揉めに揉めて、なんとか片方が折れた感じで決着したんですが......」
課長「そんなこと、ひと言も書いていないじゃないかよ」
田原本「まぁ、一応の合意のもとで会議は終わったので......」
課長「あんなぁ、場の状況まで記録するのが議事録だろうが!」

田原本くんの表情はこわばり、課長に詰め寄ります。

田原本「課長は日頃、議事録には客観的事実だけを記せって言っているじゃないですか」
課長「おお、そうだ。当たり前じゃないか!」
田原本「だから決まったことだけを冷静に書いてるんです!」
課長「おまえは馬鹿か。結果だけを淡々と記すだけで客観的だと思っているのか!」
田原本「違うんですか?」
課長「その場で見聞きした討議の情勢もちゃんと書いておく。それが議事録だ!」
田原本「そんなことを書けば、ボクの主観的な見解になりませんか」
課長「つべこべ言わずに、出席者の動向も議事録にはちゃんと記録しておけよ!」
田原本「どうやって書けばいいのですか?」
課長「知るか! 自分で考えろ!」

恵賀くんは、いてもたってもいられません。
悔しげな表情で席に戻る田原本くんに、「話は全部聞いた。ボクが何とかしてやるよ」とドラマで時間短縮する際に使う台詞を、恵賀くんは言い放ちました。

つづく
会議で描く】| 2011年2月21日 | コメント(1048) | トラックバック(0)


006_臨場感あふれる議事録の書き方_2.jpg
「ロジャー・スペリーの右脳左脳モデル理論を、君は知っているかね?」という恵賀くんの投げかけに、「えっ、何様?」と反応した4年先輩にあたる田原本くんは、「そんな理論は知らないし、知りたくもない」とキッパリ。

ガッカリ顔の恵賀くんでしたが、気を取り直して一枚の用紙を見せます。
「ボクの議事録をご覧よ。ほら、左サイド。文章で決定事項や未決事項を正確に記しているよね。でもこれだけでは、その場の雰囲気や情勢の変化は伝わらない。だから文章の右側に話し合いの状況をイラストにして、それらを繋げながら経過を表していくんだよ」
田原本くんは、興味深く紙面に目をやりました。

その様子に安心した恵賀くんは、学者口調が復活です。
文章などの直列的な論理把握は左脳が得意とするところだが、全体的なイメージや構成などの概念的な表現は右脳の役割必要なんじゃ。我々はその両方の視点から情報をつかんでおる。したがって、こうした描く行為を加えることで、読み手の全脳にメッセージを届けられるんだな、これが。そんなロジャー・スペリーの右脳左脳モデルを基に......」
田原本くんは「うるさいよ!」と、きつめの抵抗を挟みました。

恵賀くんは開けた口を閉じることなく、「......じゃ、失敬」とその場を去ろうとします。
田原本くんは反省を示し、「わ、悪かったよ、恵賀。俺にもそのロジャーなんちゃらを教えてくれよ」と、懇願の姿勢に切り替わりました。

さらなる教えを請うために......

つづく
会議で描く】| 2011年2月23日 | コメント(1083) | トラックバック(0)


006_臨場感あふれる議事録の書き方_3.jpg
ニヤリと口元を緩めて、立ち止まる恵賀くん。
「ま、ロジャーのことは、この次にして......」と、"アンタにはまだ早いよ"的なニュアンスを醸しながら、田原本くんへ振り返ります。
そして、「これを見なよ!」と恵賀くんはいつの間にやら描いた絵を見せつけ、「ポイントは3つだ」とキッパリ。
その後は説明口調で続けました。

「人またはグループを一つの単位として捉え、擬人化をする。描き分けるために、丸や四角、三角といった輪郭で記す。けっして似顔絵を描くわけではなく、記号としてその対象を表すのだ」

「話題にはまず自ら主張する"言い出しっぺ"がいる。その発言者をひと目で認識するために、輪郭の周りには強調線を引いて目立たせる」

目の描き方で、その時にみせた心理を表現する。満足しているか、抵抗しているか、冷静か、などを議事録作成者が感じた印象で素直に表せばよいだろう」

主張の強さや発言のポジティブ性・ネガティブ性は、口の形状で示す。そう、半月を描く要領だ。その発言の勢いによって口の大きさを変えれば、さらに雰囲気が伝わる」

恵賀くんは「ポイントは3つ」と言いながら、4つのポイントを伝えました。
田原本くんは「うん、やってみるよ」と自分のデスクに走ります。
「これでどうやら、彼は出世コースを歩むだろう......」と、全く何の脈略のないつぶやきを発した恵賀くんは、やや音を外しながらビリー・ジョエルの『ストレンジャー』を口笛で奏でてその場を去りました。

第6話おわり
会議で描く】| 2011年2月25日 | コメント(1005) | トラックバック(0)